(当時は)テーブルというとほとんどが日本製で、

使われるパーツもほぼ純国産

今回は、前回のボールと並んでビリヤードをプレーするうえでなくてはならない道具である「テーブル」についてお話しします。

今でこそ外国製のテーブルでプレーすることが当たり前になっていますが、40年くらい前まではテーブルというと、キャロム・ビリヤードもポケット・ビリヤードもほとんどが日本製で、使われるパーツもほぼ純国産でした。

たとえば、ラシャの下にある石(スレート)。

これは粘板岩といって硯の材料にも使われるものですが、国産のスレートは品質が高く、厚くて頑丈で、その後に輸入されるイタリア製のスレートよりも、身がつまっていたように思います。

ラシャもニッケか水文の国産品でした。

今でもこの2社はラシャを製造していますが、当時は材料がウールで今と比べるとモサモサしていて、コンディションが重く、ボールが走りませんでした。

そうした国産パーツを乗せる“船造り”を手がけていたのが日勝亭や淡路亭で、その船の名前はポケット・ビリヤードでいうと「ガリオン」。

アメリカ製のブランズウィックと比べても立てつけが良く、構造を見てもしっかりしていたと思います。

一方、キャロム・ビリヤードのテーブルには決まった名称がなく、日本玉台や淡路亭などのテーブル製造会社のエンブレムがつけられていただけでした。

また、当時のテーブルには、今のようにヒーターはついていませんでした。

外国製のテーブルを知っている人が「同じようにヒーターをつけたい」といって、オプションでテーブルの下にヒーターをつけたのを見たことはありましたが。

その後、円高やビリヤード・ブームが手伝って外国製のテーブルが入って来たのですが、その前に「グラニート」というスペイン製のキャロム・ビリヤード用のラシャが入ってきました。

これは、薄くて転がりが良く、それまでのコンディションとまったく異なったため、少しの間みんなが驚き、戸惑いましたが、すぐにこぞって使うようになりました。

そのため、世界的にもグラニートが主流になると思われていました。

ヨーロッパ製のテーブルに対して戸惑ったが、

使い慣れていくうちにいろんなことができるようになった

ところが、今の『ワールドカップシリーズ』のような大会が開催されることになったときに、いち早く「ラシャを提供する」と名乗りを挙げた会社がありました。

それが、フランスの「イワン・シモニス」。

それからは、世界的に一気にシモニスのラシャが主流になったのです。

そのころからテーブル自体も外国製が輸入されるようになって、ポケット・ビリヤードではアメリカ製の「ブランズウィック」。

キャロム・ビリヤードでは「シェビロット」「バンラーレ」「フルホーブン」「ソレンソガード」といったヨーロッパ製のテーブルが、国内の多くのビリヤード場に並ぶようになりました。

最初は、ヨーロッパ製のテーブルに対して戸惑ったものですが、使い慣れていくうちにいろんなことができるようになって、実際に当てやすさも感じられました。

また、世界のキャロム・ビリヤードの中心はヨーロッパでしたから、国際大会には当然ヨーロッパ製のテーブルが採用されます。

そのため次第に日本でも「これしかない」と、ヨーロッパ製のテーブルを使うことが主流になり、プレーするようになりました。

朝から球を撞くというときは、

ボールを前の日からテーブルの上に置いておいた

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当時のヨーロッパ製のテーブルの特徴は、もちろん今でもそうですが、堅牢だったこと。

このことはキャロム・ビリヤードのテーブルにおいては、とても大事なことです。

キャロム・ビリヤードはボールが大きくて重く、それが二重回しだとかでグルグル動き回りますし、ハードショットも要求されます。

言うなればポケット・ビリヤードに比べてキャロム・ビリヤードは、テーブルにかかる力が大きいのです。

そのため、テーブル自体が弱いとテーブルが揺れ、テーブルが揺れるとボールが滑走せず、パワーロスしてスピンを途中で使い果たしてしまいます。

それでは、長い距離を引いたり、スピンをできるだけ長い時間残したりすることができないのです。

つまり、テーブルが弱いとプレーに支障をきたします。

ほとんどのキャロム・テーブルに鉄骨が入っていてスレートも厚く、総重量が約1.2トンもあるのは、そのためなのです。

また、ヨーロッパ製のテーブルが輸入された当初から既に、テーブルにはヒーターがついていましたが、その役目は乾燥させるためです。

たとえば逆のヒネリが効いた状態のボールがクッションに対して鋭角に入ると、クッションから出た後にボールは、出てきたクッションに戻るようにカーブします。

でも、クッションが湿気ていると、そのカーブが出ないのです。

そういうことを防ぐためにヒーターがついているのですが、ヒーターを主に乾燥のために使っているのは、日本特有のことです。

ヨーロッパは気候的に元々乾燥していることが多いですから、テーブルを乾燥させる必要はあまりありません。

それなのに、日本ではホワーッと効かせる程度なのに対して、ヨーロッパでは結構、熱いぐらいまでヒーターを効かせます。

では、なぜヒーターをつけたかというと、元々の理由はボールを温めるためです。

ボールは温かいと柔らかく、寒いと硬くなります。

それによってボールの反発も変わるのですが、ヨーロッパは寒いところが多いからボールが冷えやすいのです。

ですからいつも同じように反発させるために、ヒーターをつけたのです。

私も昔、朝から球を撞くというときは、ボールを前の日からテーブルの上に置いておきました。

ヒーターは一日中つけっぱなしで消すことはありませんから、テーブルの上に置いておけばボールが温まるのを待たずに、来てすぐに撞けます。

ボールの上も下も満遍なく温めるために、ボールの上から蓋をかぶせたこともありました。

スリークッションは、

精密さが要求される測量に近いゲーム

近年でもテーブルメーカーは開発を続けていて、ニューモデルを発表しています。

その構造を見ると、力の分散のさせ方などを構造力学や建築学に基づいて緻密に計算して設計していることがわかり、感動します。

実際テーブルの精度が上がったことでスリークッションでは、得点できる形がどんどん増えてきました。

昔なら「それは狙える球じゃない」といわれるような球も今ではイージーに取れるようになりましたし、走りが足りなくて「惜しい」なんていうことは、少なくなりました。

スリークッションは、精密さが要求される測量に近いゲームです。

ですからテーブルの精度がダイレクトにプレーに影響するし、競技する側も見る側も、そこを楽しんでいるともいえます。

一方でポケット・ビリヤードは、テーブルが良くなったからといって、それによって出しの幅が広くなったり、より高度なことができるようになったりしたかというと、スリークッションほどではないように思います。

ナインボールでいえば、当然テーブルの精度が高いに越したことはありませんが、それを利用してプレーされることは少なく、むしろ刻々と難しくなってくるコンディションの中で見られる、意外性のあるプレーが魅力だと思います。

もちろん、「マスワリ連発」のような洗練されたプレーを見るのもワクワクするものですが。