キューがツーピース仕様になったことで、
製作の自由度は、飛躍的に上がった
今回は、キューを構成する「パーツ」についてお話しします。
キューは元々、シャフトとバットの区別がない1本の棒(ワンピース)で、1820年代後半から今のような、シャフトとバットをジョイントでつなぐツーピース仕様になりました。
ワンピースですと当然、キュー先からキュー尻までの素材(木)はすべて同じです。
ですからたとえば、メイプルでワンピースのキューを作る場合、メイプルそのものが他の木と比べて軽いため、キューの後部を重くすることができません。
一方でツーピースは、いろんな木を使うこと(組み合わせること)ができますし、キューのバランスを前や後ろにすることもできます。
つまり、キューがツーピース仕様になったことで、製作の自由度は、飛躍的に上がりました。
また、ハギのないバットが、ワンピース・キューのように硬くなりやすいのに対して、バットをハギのような組み木で作ると、素材同士がバネのように緩衝して撞いた感じが柔らかくなりますし、デザインの自由度も上がります。
そうした理由もあって、バットをハギで作ることが主流になっていったのですが、とはいえ組み木をするのにも限界はあります。
たとえば32剣ハギも、できないことはありません。
でも、接合部分が多くなるほどバット全体は弱くなりますから、それだけ複雑に組むと撞いた時に腰折れして、道具としての性能は下がってしまうおそれがあります。
それからすると、8剣ハギぐらいまでが適当だと思います。
その後、バットはフォアアーム部、グリップ部、スリーブリング部のスリーピース構造で作られるようになりました。
それによって、それぞれをつなぐボルトの位置や重さを変えることでキューそのもののバランスを細かく変えられるなど、チューンナップしやすくなり、自由度もさらに上がりました。
ところでキャロム・ビリヤードのキューには、糸巻きがないノーラップのグリップや竹の子ハギのキューが多いです。
それは、キャロム・ビリヤードのキューは、より頑丈である必要があり、そのためにバットをスリーピースではなく、芯になる木をワンピースと同じような構造で作っているためなのです。
ジョイントの役割は、
単にバットとシャフトをつなぐだけではない
このようにキューは、進化し続けていますが、その一端を担ったのがジョイントです。
キューのパーツのなかでは目立たないですが、しかしとても重要で、ジョイントの性能が良くないと、デザイン的にどれだけそのキューに見惚れたとしても、プレイヤーとしては使うことが難しいのではないかと思います。
そしてそのことをキューメーカーもわかっているからこそ、世界中で新型ジョイントが開発されているのです。
昔、「ジョイント作りで苦労するぐらいなら、ジョイントを作らなければいい」と考えて、新しいタイプのキューが発売されました。
「スリークォーター・キュー」といって、全体の3/4がシャフトで残りがバットというキューでしたが、それを使った時に初めて「ジョイントの役割は、単にバットとシャフトをつなぐだけではない」ということがわかりました。
ショット時にキューは、ジョイント部分で若干「ギュッ」とたわみ、それによってよりヒネリが効きます。
でも、そのスリークォーター・キューはジョイントがないために、たわみませんから、ヒネリの効きが弱かったのです。
撞いた感触も、竹の棒をコンクリートに転がした時の「カランッ」っていう感じでした。
私が最初に使ったキューのジョイントは、真鍮製でした。
今から40年くらい前の話ですが、ホームセンターでも売られているネジを代用したもので、精度が低くてネジに隙間がありましたから、止め終わるまでカチャカチャと音がしました。
長く使っていると錆びることもあって、見た目にもキレイではありませんでした。
それを2年ぐらい使った後は、雄ネジも雌ネジも木で作られたウッドジョイントのキューを使いました。
シャフトに雄ネジがあるもので精度が高かったですから、キャロム・ビリヤードのプレイヤーの多くが使うようになりました。
ウッドジョイント仕様のポケット・ビリヤードのキューも作られましたが、昔はプレーキューでブレイク・ショットをしていましたから、ウッドジョイントですと下手すると折れてしまいます。
ですからポケット・ビリヤードでは、真鍮製やその後に出たステンレスなどの金属のジョイントが受け入れられていきました。
ただ、ジョイントカラーまでがステンレスですと、どうしてもキュー全体のバランスが前になります。
キューの前方が重いと撞く時にキューがおじぎしやすく、押しが効きにくくなりますから、特にキャロム・ビリヤードでは好まれにくいのですが、それを解決したのがプラスティックでした。
有機合成化学の研究が進み、金属と同じくらいの強度があるプラスティックができたことで、バランスがよくしっかりとしたキューが作られるようになったのです。
また、ジョイントカラーは昔、圧縮した紙で作られたこともありました。
タップの下に敷く「座」と同じようにです。
湿度が高いとふやけた状態になるため、耐久性に問題がありましたが、結構長い間使われていました。
先角を「コツ」と呼ぶ人がいるのは、
骨類を付けたことが由来
ところで、今から200年近く前のタップができた当初は、タップをキューの先端に直接付けていました。
でもそれでは、撞いているうちに木がささくれだったたり、真っ二つに割れたりします。
そこで、キュー先の保護のために骨類を付けるようになりました。
それが先角(さきづの)の始まりで、今も先角を「コツ」と呼ぶ人がいますが、それは骨類を付けたことが由来です。
最初は象牙で、その他ではクジラやシャチの歯、鹿の角などが使われました。
私がビリヤードを覚えたころも、主流はシャチでした。
でも骨類は、乾燥に弱くて割れることがありました。
それに、音や感触は象牙が優れていましたが、高価ですし、世界的に象の捕獲が禁止されたこともあって、先角の素材には、今のようにプラスティックが使われるようになりました。
先角は撞いた時の感触に影響を与えます。
私が設定したタップの反発時間よりも遅く反発させるものもありますし、タップの性能を殺してしまうこともあります。
ただ、比較的安く簡単に交換できることも先角の特徴です。
ですから、付いている先角が好みに合わなければ、リペア業者に交換してもらうといいと思います。
ちなみにキャロム・ビリヤードでは、先角交換は割とよく行われています。
ポケット・ビリヤードの先角の長さは2.5センチぐらいですが、キャロム・ビリヤードは大体1センチ以下です。
小さいうえに、キャロム・ビリヤードは先角に一番パワーがかかる競技ですから、痛みやすく、シャフトの寿命がくる前に壊れてしまうことも少なくありません。
感触の違いを正確に伝えるのは、言葉や文字では難しい反面、
ボールを撞けばすぐに理解できる
先角もジョイントも、ショット時の感触に関わるパーツですが、感覚は人それぞれで、だからこそ好みが異なります。
撞いた感触一つをとっても「コッ」「コツッ」「コツンッ」「コツーンッ」とあります。
そしてその感触の違いを正確に伝えるのは、言葉や文字では難しい反面、ボールを撞けばすぐに理解できます。
仮に、撞いた感触がいいキューがあるとします。
それがどんな感触か、どう良いかを友達に伝える時には、言葉ではなく、キューを渡して撞いてもらえば「なあ、いいだろ?」「うん、いいね」で話は終わります。
知識や経験を共有していれば、話をしなくても感覚を伝え合うことができるのだと思います。
道具には、気に入ったデザインのものを使う喜びや、単に使うことの楽しさもあります。
でも、それだけではありません。
キューがツーピース仕様になったことで、
製作の自由度は、飛躍的に上がった
今回は、キューを構成する「パーツ」についてお話しします。
キューは元々、シャフトとバットの区別がない1本の棒(ワンピース)で、1820年代後半から今のような、シャフトとバットをジョイントでつなぐツーピース仕様になりました。
ワンピースですと当然、キュー先からキュー尻までの素材(木)はすべて同じです。
ですからたとえば、メイプルでワンピースのキューを作る場合、メイプルそのものが他の木と比べて軽いため、キューの後部を重くすることができません。
一方でツーピースは、いろんな木を使うこと(組み合わせること)ができますし、キューのバランスを前や後ろにすることもできます。
つまり、キューがツーピース仕様になったことで、製作の自由度は、飛躍的に上がりました。
また、ハギのないバットが、ワンピース・キューのように硬くなりやすいのに対して、バットをハギのような組み木で作ると、素材同士がバネのように緩衝して撞いた感じが柔らかくなりますし、デザインの自由度も上がります。
そうした理由もあって、バットをハギで作ることが主流になっていったのですが、とはいえ組み木をするのにも限界はあります。
たとえば32剣ハギも、できないことはありません。
でも、接合部分が多くなるほどバット全体は弱くなりますから、それだけ複雑に組むと撞いた時に腰折れして、道具としての性能は下がってしまうおそれがあります。
それからすると、8剣ハギぐらいまでが適当だと思います。
その後、バットはフォアアーム部、グリップ部、スリーブリング部のスリーピース構造で作られるようになりました。
それによって、それぞれをつなぐボルトの位置や重さを変えることでキューそのもののバランスを細かく変えられるなど、チューンナップしやすくなり、自由度もさらに上がりました。
ところでキャロム・ビリヤードのキューには、糸巻きがないノーラップのグリップや竹の子ハギのキューが多いです。
それは、キャロム・ビリヤードのキューは、より頑丈である必要があり、そのためにバットをスリーピースではなく、芯になる木をワンピースと同じような構造で作っているためなのです。
ジョイントの役割は、
単にバットとシャフトをつなぐだけではない
このようにキューは、進化し続けていますが、その一端を担ったのがジョイントです。
キューのパーツのなかでは目立たないですが、しかしとても重要で、ジョイントの性能が良くないと、デザイン的にどれだけそのキューに見惚れたとしても、プレイヤーとしては使うことが難しいのではないかと思います。
そしてそのことをキューメーカーもわかっているからこそ、世界中で新型ジョイントが開発されているのです。
昔、「ジョイント作りで苦労するぐらいなら、ジョイントを作らなければいい」と考えて、新しいタイプのキューが発売されました。
「スリークォーター・キュー」といって、全体の3/4がシャフトで残りがバットというキューでしたが、それを使った時に初めて「ジョイントの役割は、単にバットとシャフトをつなぐだけではない」ということがわかりました。
ショット時にキューは、ジョイント部分で若干「ギュッ」とたわみ、それによってよりヒネリが効きます。
でも、そのスリークォーター・キューはジョイントがないために、たわみませんから、ヒネリの効きが弱かったのです。
撞いた感触も、竹の棒をコンクリートに転がした時の「カランッ」っていう感じでした。
私が最初に使ったキューのジョイントは、真鍮製でした。
今から40年くらい前の話ですが、ホームセンターでも売られているネジを代用したもので、精度が低くてネジに隙間がありましたから、止め終わるまでカチャカチャと音がしました。
長く使っていると錆びることもあって、見た目にもキレイではありませんでした。
それを2年ぐらい使った後は、雄ネジも雌ネジも木で作られたウッドジョイントのキューを使いました。
シャフトに雄ネジがあるもので精度が高かったですから、キャロム・ビリヤードのプレイヤーの多くが使うようになりました。
ウッドジョイント仕様のポケット・ビリヤードのキューも作られましたが、昔はプレーキューでブレイク・ショットをしていましたから、ウッドジョイントですと下手すると折れてしまいます。
ですからポケット・ビリヤードでは、真鍮製やその後に出たステンレスなどの金属のジョイントが受け入れられていきました。
ただ、ジョイントカラーまでがステンレスですと、どうしてもキュー全体のバランスが前になります。
キューの前方が重いと撞く時にキューがおじぎしやすく、押しが効きにくくなりますから、特にキャロム・ビリヤードでは好まれにくいのですが、それを解決したのがプラスティックでした。
有機合成化学の研究が進み、金属と同じくらいの強度があるプラスティックができたことで、バランスがよくしっかりとしたキューが作られるようになったのです。
また、ジョイントカラーは昔、圧縮した紙で作られたこともありました。
タップの下に敷く「座」と同じようにです。
湿度が高いとふやけた状態になるため、耐久性に問題がありましたが、結構長い間使われていました。
先角を「コツ」と呼ぶ人がいるのは、
骨類を付けたことが由来
ところで、今から200年近く前のタップができた当初は、タップをキューの先端に直接付けていました。
でもそれでは、撞いているうちに木がささくれだったたり、真っ二つに割れたりします。
そこで、キュー先の保護のために骨類を付けるようになりました。
それが先角(さきづの)の始まりで、今も先角を「コツ」と呼ぶ人がいますが、それは骨類を付けたことが由来です。
最初は象牙で、その他ではクジラやシャチの歯、鹿の角などが使われました。
私がビリヤードを覚えたころも、主流はシャチでした。
でも骨類は、乾燥に弱くて割れることがありました。
それに、音や感触は象牙が優れていましたが、高価ですし、世界的に象の捕獲が禁止されたこともあって、先角の素材には、今のようにプラスティックが使われるようになりました。
先角は撞いた時の感触に影響を与えます。
私が設定したタップの反発時間よりも遅く反発させるものもありますし、タップの性能を殺してしまうこともあります。
ただ、比較的安く簡単に交換できることも先角の特徴です。
ですから、付いている先角が好みに合わなければ、リペア業者に交換してもらうといいと思います。
ちなみにキャロム・ビリヤードでは、先角交換は割とよく行われています。
ポケット・ビリヤードの先角の長さは2.5センチぐらいですが、キャロム・ビリヤードは大体1センチ以下です。
小さいうえに、キャロム・ビリヤードは先角に一番パワーがかかる競技ですから、痛みやすく、シャフトの寿命がくる前に壊れてしまうことも少なくありません。
感触の違いを正確に伝えるのは、言葉や文字では難しい反面、
ボールを撞けばすぐに理解できる
先角もジョイントも、ショット時の感触に関わるパーツですが、感覚は人それぞれで、だからこそ好みが異なります。
撞いた感触一つをとっても「コッ」「コツッ」「コツンッ」「コツーンッ」とあります。
そしてその感触の違いを正確に伝えるのは、言葉や文字では難しい反面、ボールを撞けばすぐに理解できます。
仮に、撞いた感触がいいキューがあるとします。
それがどんな感触か、どう良いかを友達に伝える時には、言葉ではなく、キューを渡して撞いてもらえば「なあ、いいだろ?」「うん、いいね」で話は終わります。
知識や経験を共有していれば、話をしなくても感覚を伝え合うことができるのだと思います。
道具には、気に入ったデザインのものを使う喜びや、単に使うことの楽しさもあります。
でも、それだけではありません。
性能面でとても大事な、肌なり骨なりで感じるバイブレーションやショック——その感覚を人と共有することもまた、道具の楽しみ方なのではないかと思います。