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バンキングで勝ったプレイヤーは

必ずといっていいほど白球を選び、相手に黄球を撞かせた

今回は、ビリヤードをプレーするうえでなくてはならない道具「ボール」についてお話しします。

今のキャロムボールには白、黄、赤(的球)の3色が使われていますが、30年くらい前までの手球は両方とも白でした。

その片方には3ミリぐらいの黒のドットがあって、それを「黒球」、もう一方を「白球」と呼んで区別していました。

ところが、トーナメントともなるとお客さんの位置からでは、どっちが白球でどっちが黒球なのかが試合中に時々、わからなくなることがありました。

そこで見た目にわかりやすくしようと、黒球から今の黄球に変更されたのですが、黄球に変わった当初はプレイヤーの間で、白球と比べて黄球のほうが「表面にチョークが残りやすい」「コースが詰まりやすい」といった話が出ました。

真偽のほどは定かではありませんが。

ボールというのは、実は2層構造になっていて、基材である硬質プラスティックの外側が薄くコーティングされているのですが、黄球を作る場合、硬質プラスティックには、顔料が混ぜ込まれます。

つまり、微妙とはいえ白球とは材質が異なるわけで、それが原因だったのかもしれません。

当時はバンキングで勝ったプレイヤーが先攻・後攻を選ぶだけでなく、ボールの色も選択していたのですが、そうした理由で少しの間、バンキングで勝ったプレイヤーは必ずといっていいほど白球を選び、相手に黄球を撞かせていました。

予想するにそうした話を受けてボールメーカーのアラミス社が研究を進めたところ、ボールを黄色にすると表面が弱くなるとか、何らかの欠点がわかり、改良したのではないでしょうか。

しばらくして、白球も黄球もほとんど状態が変わらなくなったのです。

しかも、それまでは使ってるうちに表面のコーティング部分にひび割れが起きることがありましたが、それも見られないようになりました。

白球・黒球の時代の精度は、当時の最高技術で作られていたとはいえ、今と比べると幼稚なもの。

そこから今のように堅牢で精度の高いものにしたアラミス社の技術はすごいと思いますし、黙っていても売れていく商品でありながら黄球を改良したように、常に研究していいものを作り続けようとしている姿勢は、尊敬に値すると思います。

9がいくつも並ぶ世界一の真球体であることが

科学的な検査によって証明された

その後に作られたのが、今ではすっかりお馴染みになった、表面に赤いドットが入った「ドットボール」。

スリークッションを見る際に手球のスピンがわかりやすいようにと、キャロム・ビリヤード界が考案したのです。

ドットボールの作り方は、6つのドットがボールの表面に均等にできるように、ドットとなる赤い棒を組み合わせて骨格を作り、それを液状のプラスティックに浸けて固めます。

そしてその固まりを研磨して丸くしているのです。

つまりドットボールは、多少なりとも成分が違うものを合わせて作られています。

そのため、穴を掘ってドットを埋めたり、あとから接着していないとはいえ、普通に考えると均一に作ることは難しいです。

でも以前にテレビで見ましたが、真球度(球体の丸さの精度)が一定以上ある球体の中で最も小さいものは、精密機械に使われるベアリングの球。

その逆に最も大きい球体がビリヤードのボールで、その真球度はほぼ100%。

99.99……と9がいくつも並ぶ世界一の真球体であることが、科学的な検査によって証明されていました。

アラミス社にはそれだけの技術があるということで、我々が不都合なく正確にプレーできているのは、その精度の高さのおかげです。

ポケット・ビリヤードでは他社のボールも使われていますが、キャロム・ビリヤードではアラミス社のボールが大多数を占めており、それも頷ける話だと思います。

重いと感じるのは

単純な重さの違いではなく感覚的なもの

ただ個人的には、ドットボールが出た当初は「気持ち悪い」と思いました(笑)。

たとえばファイブ&ハーフの空クッションを撞く場合、その撞点は体で覚えています。

でもドットがあると、なんだか「ここを撞け!」と指図されているように思いました。

撞点を測量する時にも、若干ドットが邪魔になったこともありました。

また、普通の手球とドットボールでは、「ドットボールのほうが重い」という話もありました。

確かに、絵の具は色によって質量が異なりますし、同じ赤でも有機顔料と無機顔料を使ったものとでは、やはり質量が違います。

それからすると、普通の手球よりもドットボールのほうが重たくなったとしても、おかしくはないと思います。

でもアラミス社なら、その差はごくわずかなものに抑えているでしょうし、反発計数だとかいろいろなテストをクリアしたものだけが世に出ているはずです。

ですから、重いと感じるのは単純な重さの違いではなくて、感覚的なものではないかと思います。

ボール同士が当たると、90度に近いラインで弾けます。

でもその弾け方が今までと違って「割れない」と感じられたなら、それによって「手球が重い」と感じられてもおかしくはありません。

もっと単純なことをいえば、ボールは使えば使うほど、ラシャとの摩擦や拭き掃除によってすり減ります。

その状態の手球と新しく買ってきたドットボールとを比べれば、それはもちろん新しいドットボールのほうが重いです。

つまり、本来の重さに戻っただけのことで、それによって重いと感じられたのかもしれません。

ちなみにボール掃除には昔、銅や真鍮の錆を落とすための研磨剤が使われていました。

でもそれだとボールが削られてどんどん小さくなっていったので、車や家具用のワックスが使われるようになりました。

今ではそれらのほか、アラミス社のボール用ワックスも広く使われています。

単に球体を扱うことに面白さを感じて

だからこそ大勢の人が熱心にプレーしている

世界にはいろいろ球技があって、多くの人に親しまれています。

それは、それぞれに面白さがあるからでしょうが、その大元ですべてに共通しているのは「ボールを扱う」ということです。

ボールは、根元的に人を面白がらせる魔力を秘めています。

赤ん坊や幼児は、たとえその意味がわからなくても、または上手にできなくても、ボールを転がすだけで楽しいと感じて喜びます。

あるいは河原で見つけた丸い石を宝物にしたり、水晶の玉が神秘的に感じられたりもします。

そうした感覚と同じで、つまりその球技のどこがどう面白いということではなく、単に球体を扱うことに面白さを感じて、だからこそ大勢の人が熱心にプレーしているのではないかと思います。

それはビリヤードも同じだと思います。

スリークッションやナインボールが面白いということではなくて、地球上で最も真球度の高いボールを扱えるという喜びがあって、そしてそれだけのものをデリケートにコントロールするところに、実はみんな面白さを感じているのではないでしょうか。

ボールをクッションに向かって撞くだけでも十分楽しいはずですし、始めたころはそれだけでワクワクしたことでしょう。

撞いた時の感触や音を感じるだけで嬉しいという人も、少なくないと思います。

ですからジュニアでもシニアでも、初心者にビリヤードを教える場合には、得点の仕方だとかを教える前に、まずはそういう面白さから伝えると興味を持ちやすいし、普及していくように思います。

キャリアが増えて技術や勝負だけに目が向いてしまうと、根元にある「球と付き合うことの楽しさ」を忘れてしまいます。

得点できないとか上達しないとかで思い悩むことが多い人は、今一度その原点に戻ってみてはいかがでしょうか。

2015年 8月9日 Written by. Hideo Moori