2nd 「一枚革について」
ブルー系の革は「クローム鞣し」、
茶色のタップは「ベジタブルタンニン鞣し」
今回は、古くからある「一枚革(単板)タップ」や「鞣し(なめし)」などについてお話しします。
タップの研究・開発をしていくなかで弊社では、前回お話ししましたように、ある意味必然的に「積層」という答えに辿り着きました。
しかしながら、だからといって「タップは積層でなければダメ」ということでありません。
古くから多くのビリヤードファンに向けてタップを供給し続けてきた、単板タップ・メーカーの功績は、ビリヤード業界においてとても大きいと思っています。
いわゆる「ブルー系」といわれる青いタップを、よく「一枚革」とは別に「ファイバー」と区分けされることがあります。
でもこれは間違いです。
実はこれらも茶色のタップと同じ一枚革で、それらと異なるのは鞣し方なのです。
皮を「溶けない・腐らないもの」に作り替える作業を「鞣し」といいますが、ブルー系の革は「クローム鞣し」で作られています。
一方、茶色のタップには、「ベジタブルタンニン鞣し」の革がよく使われています。
ですから、それぞれを区分けする場合は、「クローム系」「ベジタブルタンニン系」と呼ぶのが正しいです。
ちなみに弊社では、ベジタブルタンニン鞣しの革を使用しています。
丈夫なのはもちろんのこと、
軽く仕上がるのもクローム鞣しの特徴の一つ
ところで、人間がなぜ皮を鞣す方法を知ったかというと、こんな面白い話があります。
昔々のある時、牛が肥溜めに落ちて溺れ死にました。
でも、死んだ牛を引き上げるのが面倒なのでそのままにしていました。
そしてだいぶ長い時間が経ってから、皮を剥いで洗って利用しようとその牛を引き上げたところ、野生の皮を揉むなどして作った今までの革と比べて、ものすごく丈夫な革に仕上がっていました。
そこで「なぜそんな丈夫な革ができたのか」の理由を探ったところ、動物の糞のなかにあった餌(植物)の食べかすや草の汁などと、動物そのものがもっている物質が化学反応を起こして、生皮が鞣し革に変わったことを発見したのでした。
それがベジタブルタンニン鞣しの元祖です。
そこからいろいろな鞣し方が研究されて、中世ではよりいい革が作られるようになりました。
その後19世紀の中ごろになると、ドイツ人の科学者が「ベジタブルタンニン鞣しはくさいし手間がかかるし、若干重たくもなる。もっと科学的な薬品で鞣しができないものか」と考え、研究を始めました。
その末に発明されたのがクローム鞣しです。
これが画期的で、丈夫なのはもちろんのこと、軽く仕上がるのも特徴の一つです。
それに、タップを見てわかるようにベジタブルタンニン鞣しでは、濃い茶色に仕上がるので色をつけにくいのですが、クローム鞣しは薄い色で仕上がります。
ですから、ブルー系のように染色しやすいのです。
そうした利点があったためにクローム鞣しは、あっという間にベジタブルタンニン鞣しを追いやって世界中に広まりました。
今ではおそらく、95%以上の革がクローム鞣しで作られていると思います。
アルファ波が出そうな乾いた感じの
「スコーンッ」ていう雑音のない音がした
ところで、ゴルフクラブのウッドのヘッドには、素材として今はチタンなどが使われていますが、昔はもちろん木で、一番適していたのはパーシモン(柿)でした。
でも、パーシモンの木ばかりをたくさん切るわけにはいかず、その内にあまりいい素材が手に入らなくなったことで、合板(積層)のヘッドができました。
このことは、弊社が積層タップを作るうえでの一つのヒントになったことでもありますが、ずっとパーシモンを使ってきた人が合板を使った時に何を嘆いたかというと、それは音です。
「カキーンッ」といい音をしていたのが、合板にしたことで「ゲチャッ」という音になったのでした。
それはタップでも同じことがいえて、肉でいうヒレやサーロインのような良質な単板の革で作られたタップをいい感じに締めて撞くと、アルファ波が出そうな心地いい音、乾いた感じの「スコーンッ」という雑音のない音がしました。
でも積層タップでその音を出すのは、どうしてもプラスティック(接着剤)の音が混ざるために難しいのです。
弊社の開発当初のタップも、撞いた時に若干雑音が目立ち、それが嫌だという方がいましたが、それもそのことが理由です。
今のタップに関しては、研究が進んだことで音が嫌だといわれることは少なくなりましたが、これは今でも課題の一つといえます。
タップを試作していたころに探していた革は、
闘牛用の牛
もしも今、単板のいい革を手に入れることができるとしたら、過去にあった良質な単板のタップを超える自信があります。
それというのも、タップを試作していころに探していた革は、闘牛用の牛です。
体重が1トンもあると、大きく育って筋肉を使っているから皮もものすごく強くて、腰回りの部分になると特に強いのです。
そうしたら今から17、18年ぐらい前でしょうか。
まさに「これ!」という絶品な革が2頭分だけ送られてきたことがありました。
そこでその革を使って早速、数百個のタップを作ったところ、過去にあった高級品と同等か、それ以上の高い品質のものに仕上がりました。
試してくれたプロ選手がみんな「最高」と口をそろえるぐらいのものです。
でも、前回もお話ししましたが、その革は「あることはある」というレベルで、もう入荷することはありませんでした。
つまり、良質なタップを作れる技術はありましたが、材料がないために作りたくても作れなかったのです。
これからもそこまでの革に巡り会えることは少ないでしょうし、安定供給されるまでになると尚更だと思います。
そういう意味でも単板のタップ独特の良さを味わえる機会が、ごくごくまれになってしまったわけで、そのことは残念に思います。
2014年9月4日 Written by. Hideo Moori